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提言・レポート

提言

提言シリーズNo.3「歩いて楽しい温泉地を目指して」



Ⅰ.本提言の趣旨とその背景

人々が温泉地を訪れる大きな目的として、温泉につかり、心地良い自然環境や情緒ある温泉街で過ごすことで日頃の疲れやストレスを解消し、リラックスして楽しく過ごすことが挙げられる。
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バーデンバーデンやアバノといった海外の温泉地の多くでは、狭く入り組んだ路地や広場から車両を排除して美しい環境、快適な空間づくりを進め、人々が自由に散策したり、広場に面したカフェでのんびりとした時間を過ごすなど、滞在時間の充実につながっている。

しかしながら現在の我が国の温泉地は、交通面の課題をいくつも抱え、必ずしも安全で快適な空間となっていない。


温泉地に求められている価値をきちんと提供するためには、車と来訪者が安全に共存できる空間づくりや安らぎと情緒を感じられる景観づくり、それを支えるソフトの充実が重要である。これらの取り組みによって、温泉地での滞在時間が延び、消費支出が伸びることも期待される。

解決に向けた取り組み手法は、温泉地の立地・地形や交通環境(量、流動、季節波動...)、気候(積雪、凍結)、そしてこれまでの交通問題への取り組み経緯、行政や住民・地元企業の意識・協力体制のあり方等により、一様ではない。


本研究会での議論を通じてお互いの取り組みから学び、できることから試行することにより、各温泉地における交通問題の解決と、さらに快適な温泉街の空間づくり、情緒ある景観づくりへつなげることを目指す。
そして、交通問題について長年試行錯誤を続けてきた本研究会の参加温泉地の経験が、全国の温泉地にとっても参考となることを期待して、研究会での議論を踏まえ本提言としてまとめる。



Ⅱ.歩いて楽しい温泉地の実現に向けた提言

【各温泉地が目指す「歩いて楽しい温泉地」の姿】

阿寒湖温泉
温泉街全体の路上駐車を減らすとともに、中央通りを一方通行化し、ハンプの導入や段差の解消など歩車共存型の道路とすることや郊外の駐車場と温泉街を無料循環バスで結ぶことなどにより、快適に買い物しながら歩くことの出来る温泉街を創出し、商店街の活性化を図る。


草津温泉
郊外の広い駐車場と温泉街の外周道路を活用することで、すり鉢状の温泉街への車両の乗り入れをコントロールして歩行者と車の共存を図り、湯畑を中心に歩きたくなる観光地を実現する。


鳥羽温泉
船を利用することで、町中心部の観光施設へ集中する車の駐車場不足を解消するとともに、ゆっくりと歩きたくなるまちづくりのあり方について検討する。


有馬温泉
温泉情緒あるまちなみづくりを進め、イベントとして歩行者天国の実績を重ねることで地域内の合意形成を図り、歩行者空間の快適化を目指すとともに、バス乗り場の移転によって、玄関口の集約と温泉街中心部のにぎわい創出を図る。


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由布院温泉
温泉街中心部の混雑緩和や公共交通機関を利用する楽しさの演出、手荷物サービスによる利便性の提供など、歩いて楽しい仕掛けづくりをすることで、温泉街での滞在時間延長を目指す。




【「歩いて楽しい温泉地」として目指す方向性】

・ 温泉地の活性化に向けて、都市にはない、他の観光地では得られない、温泉地に期待されている「安らぎと楽しさのある温泉街を散策して楽しく過ごす」ことの価値をあらためて消費者へ強く訴える。

・ 宿泊施設や観光施設、住民、行政など幅広い利害関係者を巻き込み、歩いて楽しい温泉地づくりが、来訪者の滞在時間を延ばし消費の増大につながること、また美しい景観づくりの一助となることが期待されるという共通認識を築く。

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・ 混雑緩和のための「規制」という、来訪者や住民に"我慢や無理を強いる施策"に頼るのではなく、情緒あるまちなみづくりや楽しく歩ける歩道の確保、商店や飲食店の魅力づくりなど、"まちの楽しさを増す"という観点からもハード・ソフト両面の施策を組み合わせながら推進する。

・ 自然の恵みを源とする温泉地として、環境保全の観点からCO2排出量削減を意識した渋滞緩和への取り組みや、エコカーやエコディーゼル燃料を使用する車両の積極的な導入などについても検討を進める。


【取り組み方針~できることから、フレキシブルな対応で】

・ 歩いて楽しい温泉地づくりは息の長い取り組みであり、多くの利害関係者との調整が必要となるが、その施策が、不便を強いられたり厳密に取り締まられる「規制」だけでは長続きしない。

・ 日常的に厳密な取り締まりを行うのではなく、スクールゾーンや路面のカラーリングなどフレキシブルで心理面での効果が期待される施策の導入や、まずは地域の利害関係者に受け入れられる範囲でやってみることで、事業を持続させることが重要である。

・ ハード整備については、温泉地全体の長期的な交通体系づくりを見据え、道路整備関連の各種補助制度も活用しながら計画的に進める。

・ 新たな取り組みの効果や影響を確認するために試行・評価を行う交通社会実験は、一つの突破口となり得る。ただし、「実験」としては実施可能でも、それを「事業」として持続可能なものとしたり、補助金が終了した後も取り組みを継続することは容易ではない。そこで、例えばバスや駐車場の運営費を利用者にも負担いただくなど受益者負担の観点から財源確保について検討することが重要である。

【温泉地(観光業界、まちづくり組織)として取り組むこと】

地域としての取り組み方針・目指す姿の明確化

・ 道路整備の水準として、年数回の繁忙期に大きな混雑が発生することは理にかなっており、また祭りやイベント時のように来訪者で賑わい楽しさが感じられることも温泉地には期待されている。
・ このように年間を通じた一律の混雑緩和が最終的な目標ではなく、歩行者の安全性の確保、温泉地での散策の楽しさの提供を重視しながら、繁忙期と通常の週末、平日、そして歩行者優先道路や住民の生活道路、通過交通用の道路など、温泉地全体として道路の機能分担のあり方を明確化し、交通規制等の実施費用対効果も勘案しながら取るべき施策を検討する。


地域内の合意形成

100715_teigenimg01.gif・ 歩いて楽しい温泉地づくりの推進組織を立ち上げる。
・ 構想や取り組み方針については早い段階から情報を公開し、交通問題の解決と歩いて楽しい温泉地づくりへの理解を求める。
・ 歩いて楽しい空間づくりを重点的に進める対象エリアを決める。
・ 交通量調査や来訪者・住民の意向調査等、各種調査や検討会の実施などを経て、先進事例なども参考にしながら地域内の合意形成を図り、試行的な取り組みや交通社会実験へつなげる。
・ 試行や交通社会実験の際には、来訪者・住民の評価や交通量、商店の売上の変化などを把握する各種調査を実施する。
・ 観光事業者には、こうした各種調査から、例えば売上の増大など、歩いて楽しい温泉地づくりの実現による具体的なメリットを示すことで、理解を得ていく。
・ 試行や実験後も、歩いて楽しい観光地づくりに向けて継続して検討する場を設ける。



スムーズな合意形成に向けた留意点

・ 車両の乗り入れ制限など、地元の抵抗が大きい取り組みについては、期間・回数、時間帯、エリアを限定して、最初はイベントとして実績を積み、徐々に反対派の理解を得るなど時間をかけて取り組む。


・ 地元の抵抗がより少ない代替案によってほぼ同様の効果が得られるか、といった多様な切り口で検討を行う(案:車両を完全にシャットアウトするのではなく、まずは混雑を未然に防ぐように車を誘導するための案内板を設置する)。
・ 話し合いの場には、地元関係者だけでなく、利害関係のない第三者・外部の専門家が参加し、客観的な指標や他地域の事例を提示することで、理解が進むことも期待される。

来訪者との関係づくり

・ 渋滞に巻き込まれないルートや時間帯、遠回りであっても沿道景観が美しいルートの紹介など、温泉地までの交通案内の仕方を統一することで、車両の流れをコントロールする。
・ 交通規制の案内パンフレットはとかく堅くなりがちだが、温泉地を訪れる楽しさを演出するために、パンフレット類のデザインも工夫する。
・ 「1客室当たり自家用車は2台まで」「列車利用の方にはビール1本サービス、手荷物配送サービス付き」といったキャンペーンや、地元の商店街や交通機関との連携で、近郊都市からの無料送迎バスの運行や列車や船の魅力アップなど、来訪者が公共交通機関を利用したくなるインセンティブを作る。
・ こうした具体的な取り組みによって「歩いて楽しい温泉地づくり」に取り組むメッセージを発信するとともに、手荷物配送など新たなサービスを事業化し、まちづくり財源の一つとして育てていくことも考えられる。

美しいまちなみづくりや食の魅力づくりとのタイアップ

・ 外からの人がまちを歩くことによって、商店や庭先が眺められ褒められる機会も生まれる。このことで店先の掃除や庭木の手入れが行き届き、ガーデニングが盛んになるなど、自ずとまちなみが美しくなるとともに、店先をゆっくり歩く人が増えることで商店の売り上げが伸びることも期待される。
・ 交通規制によって生まれたオープンスペースに移動式カフェや屋台を出店することで、ゆっくりと屋外で食事を楽しむといった新たな価値創出につなげることも考えられる。
・ このように、美しいまちなみづくりや温泉街での新たな価値創出を念頭に置き、どのようなルートで人を歩かせるべきかを意識しながら、駐車場やバス停の再配置、散策ルートの設定を検討する。



<参考資料>

【温泉地の交通の現状】

・ 狭くて見通しの悪い道路に車と歩行者が混在しており、混雑や渋滞を引き起こしている。
→・ 歩行者にとっては:安全性、散策の楽しさが低下
・ 運転手にとっては:イライラや不慣れな土地での不安など、心理的なストレスの発生
・ 時間の浪費による機会損失(滞在時間の短縮による、飲食や買い物など消費支出の減少)
・ 住民の生活交通と観光交通が混在している場合:緊急車両や路線バスの遅延、排気ガスの放出、騒音等により住民生活が悪影響を受ける。
・ すり鉢型や傾斜地にある温泉地では、歩道のない狭い道路が多くて危険である。
→・ 子供連れにとっては、特に危険
・ 寒冷地の冬季の坂道は、特に危険
・ 観光地の道路としては、二人並んでおしゃべりしながら歩ける幅員の歩道、沿道の楽しさ(温泉情緒のある景観、ストリートファニチャー、ポケットパーク、ベンチ、木陰等)も求められる。
・ 渋滞の発生により、大量のCO2が排出される。
→・ 地球環境への悪影響、温泉街の環境悪化


【これまでの各地の取り組み概要】


・ 渋滞や混雑の緩和のために「温泉街への車両の乗り入れを制限」
特に、迷い車の排除、スムーズな交通流動のために「適切な案内・誘導システムの導入」
→具体的には...パーク&ライド(バス、レール)、駐車場の予約システム、通り名の標識の設置、マップ・カーナビでの適切な案内・誘導

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・ 歩行者の安全確保のために「歩道や歩行者空間の確保」
→歩行者・自転車専用道、一方通行規制、路上駐車の解消
・ 温泉地内の回遊性を高めるために「循環バスの運行、レンタサイクル」
・ 散策の楽しさの提供のために「魅力ある景観づくり」
→温泉情緒のある景観づくり(電柱の地中化、看板整備等)、立ち寄りたくなる店構え・店舗づくり、通り名の標識の設置、マップやカーナビでの適切な案内、イベントの実施(朝市、灯りイベント、オープンカフェ)
・ 環境保全のために「モーダルシフト(環境負荷の少ない交通手段の利用推進)」
→エコカー、エコディーゼル燃料を使った車両の導入、レンタサイクル





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